朱戸アオのつめあわせ

漫画家朱戸アオの公式ブログです。

九段坂下クロニクルについての覚え書き/前半

 2009年11月30日に「九段坂下クロニクル一色登希彦元町夏央・朱戸アオ・大瑛ユキオ共著)」が小学館より発売されます。実在する築80年以上のビルを舞台にしたオムニバスコミックスです。私、朱戸はこの中の「此処へ」という戦中、戦後にかけてのこのビルを舞台にしたの漫画をかいています。
 このオムニバスコミックスは、そもそもの発端から発売まで2年以上の月日がたっています。その間に「此処へ」にも紆余曲折がありました。漫画は本来結果のみであるべきで、過程を述べる事が出来るのはものすごく偉い人だけの特権だと知ってはいますが、なにせ共著であっても初単行本です。ちょっと書いてみてもいいでしょうか?そういえばブログはテキスト打ちとかしたほうがインタネットのアーキテクチャ的にいいっすよ、と賢い方々も本で言っていましたし。

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月刊IKKIのイキマン単行本描きおろし部門投稿時原稿

「九段坂下クロニクルについての覚え書き/前半」

 そもそもの発端は、と書こうとして、昔の手帳を掘りだしてみたり電池の膨らんだ古い携帯を充電してメールをコツコツ見たりしたのですが無駄でした。ともかく2007年の春から夏前にかけて、「九段坂下クロニクル」の企画がもちあがりました。月刊IKKIのイキマン単行本描きおろし部門の第一回応募に漫画家数人でオムニバスコミックを投稿しよう、というワンダフルな計画を私の師匠である一色登希彦先生が思いついたのです。九段坂下のビルを共通の舞台にするということだけが縛りのめちゃくちゃ楽しそうなアンソロジー本の企画でした。九段坂下の例のビルにお邪魔したこともあり、大学時代にこっそり建築を専攻していた私は「築80年以上のビルを舞台にしたオムニバスコミック」という設定に知恵熱が出たような気がするくらいもりあがりました。

 そのとき私が思いついたネタは二つ。一つは現代、九段坂下のビルに立てこもった銀行強盗と警視庁特殊急襲部隊(SAT)との対決もので、SATが突入経路を検討しているとだんだんとビルの構造や時間とともに起こった変化などが分かる、というもの。もう一つは、ビルが建ったのが昭和初期なので、なんとなく江戸川乱歩的な帝都東京を舞台にした話、という大雑把なアイディアでした。この二つのネタを一色登希彦先生に話したところ、江戸川乱歩的な帝都東京を舞台にした話、という大雑把な方を推される事となりました。
 江戸川乱歩は小学生のころ少年探偵団シリーズを随分読みましたが、これを機会にと久しぶりな少年探偵団からちょっとぶりの芋虫まで楽しく乱読しました。煉瓦塀にかこまれた薄暗い洋館や裏通りのカフェーには妄想スイッチを入れる何かがあります。そしてなんといっても、しょっちゅう何かをズバっと言い当てる明智探偵や、やたら女装が似合う小林探偵助手、きっと手間ひまかかったたであろう変なメカや変装とともにあらわれる怪人二十面相は最強の物語エンジンです。やはり「探偵」「探偵助手」「泥棒」にご登場いただこう。しかも九段坂下のあのビルにはにそれらが似合うだろう、と私は妄想しました。

 こうしてイキマン単行本描きおろし部門に投稿した「想ひ出盗人」のネームが出来上がりました。九段坂下のビルを舞台に時空を行き来して「想い出」を盗む泥棒と、それを取り戻そうとする探偵と探偵助手の話です。泥棒が盗む「想い出」は九段坂下のビルにかかわるものばかりです。その「想い出」を盗まれると、人は九段坂下のビルへの愛情を失ってしまいます。現実(ハード)と記憶(ソフト)の永遠性とのかかわりをテーマに、ビルという場所を固定し話ごとに違う時代に飛んで時間的に話を広げるというコンセプトのネームでした。

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「想ひ出盗人」のラフ

   投稿の結果、他の方々のネームが素晴らしかったこともあり、すぐにとはいかないものの編集者さんと共にネームを直し本にしていこうということになりました。しかしここでたくさんの問題が主に私のネームまわりに発生しました。まず私のネームは妄想が暴走しすぎたため、最終的に30P×3話、つまりトータルで90Pになっていました。しかし普通の単行本はだいたい200Pほど、4人でアンソロジー本を出すとすると200÷4で1人50Pとなります。明らかに一番ペーペーな私のページ数だけ他の方より多い。しかも、4人の描いた漫画の時代がばらけさせることによって、私が1人でやろうとしていた「ビルという場所を固定し話ごとに違う時代に飛んで時間的に話を広げるというコンセプト」を本それ自体が持つという企画になったのです。

 こうして私のネームは、キャラクター名等の乱歩ネタだけを残し、投稿時とは全く違う形へと変身することとなりました。 (後半につづく)

  1. 2009/11/27(金) 18:12:00|
  2. 長文