朱戸アオのつめあわせ

漫画家朱戸アオの公式ブログです。

ネメシスの杖についての覚え書き、あるいは自分では自分がよくわからない話。

2013年9月20日に拙著「ネメシスの杖」の単行本が講談社より発売されます。せっかくなので多少、覚え書きを残しておきたいと思います。
なお作中に出てくるシャーガス病についてご興味のある方は下記のエントリを御覧下さい。

シャーガス病について
シャーガス病について その2


326_05.jpg

自分が何に向いているのか、なかなか自分ではわからないものです。担当編集者さんから、また医療モノをやらないかというご提案を受けたとき、朱戸は正直、また医療モノかぁと思いました。
ちょうどその時は、それまで1年近く作業していた企画が権利関係が上手く行かずにペンディングになっていた頃で、ちょっとヒマだった朱戸はピアニストが主人公のホラーっぽいネームを勝手に描いて全ボツをくらったりしていました。

朱戸はそもそも医療モノが好きなわけではありません。特に病院を舞台にした医療モノはとてもデリケートにあつかわなければいけないポイントがたくさんあり、そちらに労力を注ぐのは嫌だなぁと思っていました。以前描いた「Final Phase」は、都心の湾岸地域の埋め立て地がアウトブレイクにより隔離されるという話で、日常的な医療の描写はほぼなくこのあたりのポイントを回避しています。このあたりの懸念を担当編集者さんにお話して、確かにそうですね、と言っていただいたのですが、編集者さんは同時に「Final Phase」をとっても褒めてくれたのでした。曰く、なかなか調べものをして漫画に落とし込める人はいない、医療関係の知り合いがいるのは強みだ、医療漫画をかくべきだ。そうなのか?朱戸が進むべきはこっちなのか?

まあ冷静に考えれば、医療モノだからといって病院を舞台にしなきゃいけないわけではありません。ジャンルは漫画の本質ではなく、どんなジャンルでも描きたい漫画をかけばいいわけです。調べものをして漫画を描けるというのが朱戸の強みで、他に特に取り柄もないのならやるしかないなーと思っていた時、ふと以前考えていた感染症を使った復讐モノの事を思い出しました。これじゃね?朱戸が今描くべきなのは?その話を担当編集者さんに少し話してみたら割と盛り上がりました。やはり…。
こうして朱戸はまんまと2作目の医療モノを描いてみる事になりました。その瞬間はまだペンディング中の企画は生きていたため(後に正式に企画はなくなる事になりました)、それが再開する事も考えて半年のスパンで連載する企画を作る事になりました。

326_04.jpg

感染症を使った復讐モノを以前から考えていた、といっても、感染症を使った復讐モノとかおもしろそうだな〜(まんま)と思っていただけで、何の感染症なのか、誰が何に復讐するのか、主人公は誰なのかなどは全く決まっていませんでした。まずは「Final Phase」の時にに医療監修をお願いしたヨシザワアキラさんにまた医療監修をお願いし快く、引き受けていただきました。その上で何冊か本を読み、ネタになりそうな感染症を探しました。

今回「ネメシスの杖」で出てくる感染症は「シャーガス病」という病気です。朱戸はこの病気を、「Final Phase」の時はウイルスをネタにしたから、今回は病原体の中でも大きな寄生虫にしよー、という緩い気持ちで読んでいた寄生虫の本で知りました。日本であまり知られていないこと、感染経路がとても興味深い事、症状がとても怖い事などが今回の復讐モノにぴったりでした。
というわけで「ネメシスの杖」は寄生虫モノになりました。寄生虫モノということで、寄生虫学者と、事件を追うキャラが出てくる事が決まりました。以前から気になっていた不作為の罪と、シャーガス病の感染経路を合わせて事件の概要を作り、アトピー持ちだった朱戸の経験をふまえてアレルギーネタを仕込みました。ヨシザワさんと目黒の寄生虫博物館に行ったり、熱帯植物園にいったり、厚労省に行って写真を撮っていたら警備員さんに怒られたりしながらキャラクターのイメージを固めました。ヨシザワさんは日本語の文献が少ない中とても丁寧にシャーガス病について調べてくれました。(ヨシザワさんは一度ブラジルの製薬会社にメールを出して薬の製造状況について確認を取ってくれました。)

326_01.jpg
326_02.jpg
一番最初にかいた紐倉と阿里のラフ。どっちも本編よりやわらかい表情をしていますね…。


そんなこんなで出来上がった1話分のネームと全体のプロット、キャラ表を担当編集者さんに見せたらほぼ一発でOKが、編集長さんからも一発でOKをもらい、3話分のネームの描きためをもちつつ連載がスタートしました。上手く行くときは上手く行くものです。いったいいままで何本のネームが…ぶつぶつ。

326_06.jpg

つまり自分が何に向いているのか、なかなか自分ではわからない、という話です。
きっと天才は自分の進むべき道がビシっと見えるのでしょう。道なんか見ないか…自分の後に道が出来ていたとかでしょうかね。しかし朱戸は天才じゃないわけです。

自分では未だに半信半疑ですが、いろいろな方の助言のおかげでで少なくとも現時点では朱戸は正しい方向へ進めているようです。朱戸は勉強よりは昼寝が好きですが、漫画というゴールがあれば本を山ほど読むのも苦ではありません。全然関係ないいくつかのジャンルの調べものが不思議とつながりを持ち、ストーリーにつながって行く瞬間は本当に最高です。

自分が何に向いているのか分かるというのは幸せな事です。それは同時に自分が何に向いていないかが分かるという苦行でもありますが、進むべき方向が分かるというのは何の目標物もない大海原にぽつんといるよりはましです。だってその方向に向かって漕げばいいわけですからね。
あっ!あそこに島がっ!
蜃気楼ではなく、島でもなく、大陸だといいなと思っています。
朱戸の灯台となってくださっているすべての人に感謝を。

「ネメシスの杖」をよろしくお願いします。


ネメシスの杖 (アフタヌーンKC)

テーマ:漫画 - ジャンル:アニメ・コミック

  1. 2013/09/18(水) 20:24:13|
  2. 長文