前回シャーガス病についてブログで書いたら、光栄な事にシャーガス病の専門家、三浦左千夫先生[追記1]にご連絡をいただきました。ご好意に甘えてお会いしてきました。
いくつか新しいお話を伺ったのでそれについて書きたいと思います。
シャーガス病の基本情報については
前回のエントリを御覧下さい。
なお、三浦左千夫先生のお話を医師でも研究者でもない朱戸がまとめておりますので、記述に間違いがある可能性があります。このエントリは参考までに読んでいただき、正確な内容に関しては専門家の方に問い合わせるなり論文を参照していただくなりしてください。

長らく「顧みられない病気:Neglected Disease」として放置されてきたシャーガス病ですが(どうもブラジルでもあまり認知されていないような状況だったようです)、近年中南米ではまた注目度があがっているようです。臓器移植などの際に用いられる免疫抑制剤の発達により、免疫系の活動が抑制された状態においてトリパノソーマが元気になってしまいシャーガス病を発症してしまう、という事が起こるようになったためです。同じような現象は人に対してそこまで有害ではないと思われていたトキソプラズマ等の寄生虫でも起こるようです。ブラジルでは貧困層のみが苦しむ病気と思われていた病気が移植を受けられるような富裕層にも問題を起こす事が分かり、研究が盛んになっているようです。
一方日本においては、シャーガス病は感染症法の中に名前すらありません。(朱戸は「ネメシスの杖」の中で感染症法は改正されてシャーガス病は届出義務のある感染症になったという設定を入れていますがコレは朱戸の創作です…)このためシャーガス病は検査も治療も保険は適用されず、また感染症法に指定されている様々な勧告もできません。
現在検査や治療は「研究目的」という状態でしか行えず、研究費がおりなければ、大学などの倫理委員会を通らなければ、それでおしまいという状態です。
シャーガス病は感染しても元気な方も多く、病態も特徴的ではないので感染が見過ごされている方がかなりの数いらっしゃる事が予想されます。感染された方の治療のためにも、献血制度の安全性確保のためにも気軽に検査、治療出来る体制が整備される方が良いのではないでしょうか。

また、シャーガス病はなかなか症状では見分けにくい病気なので、臨床に関わっているお医者さんは診断の際、よく患者さんとコミュニケーションを取りその患者さんのバックグラウンドを知る必要があるようです。シャーガス病は母子感染をするので、日本で生まれ育っていても母親がシャーガス病だと先天性のシャーガス病患者である可能性があります。
今回シャーガス病に感染された方の血液が10人程度の方に輸血されたとの事ですが、例えその方々がシャーガス病に感染していたとしてもそれを診断できない場合は輸血によるシャーガス病の被害はなかった、という事になりかねません。検査体制などの整備の他に患者さんと直接向き合うお医者さんの診断の力が必要です。
最後に、「最近の若いお医者さんは勉強熱心でシャーガス病にも興味を持って勉強してくれている。」というお話も伺ったことを記しておきます。
追記1:許可をいただいたのでお名前を公表させていただきます。

しのびよるシャーガス病―中南米の知られざる感染症
(慶應義塾大学東アジア研究所)
三浦先生も執筆者の一人、シャーガス病について正確に知りたい方におすすめの本です。少し専門的な部分もありますが朱戸のような素人でも読めます。「ネメシスの杖」を書くときの大切な参考資料でした。本書内では輸血による二次感染の危険性についても指摘されています。
テーマ:漫画 - ジャンル:アニメ・コミック
- 2013/08/23(金) 17:33:05|
- シャーガス病について
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| コメント:2
テレビでシャーガス病見ました。
私も輸血されたことがあるのですごく怖くなりました。一般の人でも検査は受けられるのですか?
- 2013/12/28(土) 13:55:25 |
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> テレビでシャーガス病見ました。
> 私も輸血されたことがあるのですごく怖くなりました。一般の人でも検査は受けられるのですか?
番組内にあった通り、まずは輸血された当時の担当医の方に相談されてはいかがでしょうか。輸血が成分献血であれば感染の危険はありません。
検査自体はエントリに書きました通り、シャーガス病は現在国の定める感染症法に載っていないため通常の医療機関ではできません。シャーガス病を研究している医療機関、大学などにお問い合わせいただくのが良いかと思います。
何か問題がありましたら、ブログ左上のメールアドレスにご連絡ください。多少のご協力はできるかもしれません。
- 2013/12/30(月) 16:18:49 |
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