朱戸アオのつめあわせ

漫画家朱戸アオの公式ブログです。

シャーガス病について

こんにちわ。朱戸アオです。
普段はブログにおいてテキスト打ちを一切しないのですが、現在シャーガス病についていくつか報道がなされており、朱戸は月刊アフタヌーンで今年の1月から6月まで「ネメシスの杖」というシャーガス病をあつかったマンガをかいていて、その記事に少しツッコミを入れてしまうくらいにはシャーガス病について勉強したので、少しなんか偉そうに書いてみようかなーとブラインドタッチ出来ないにもかかわらずパソコンに向かってみています。
一応お断りとして、朱戸は医師でも研究者でもなく、そのうえバカで大雑把なので内容に間違いがあるかもしれません。参考までに御覧下さい。

サシガメ

シャーガス病は中南米において発生する感染症です[追記1]。最近ではアメリカ南部にも侵入したという報告もあります。原因はトリパノソーマという原虫で、血液の中をニョロニョロ動く気持ちわるい奴です[追記2]。この寄生虫は人を始めとしてイヌ、ネコなどの家畜やオポッサム、ナマケモノ、アルマジロなどの野生動物に寄生することができます。そしてサシガメという吸血するカメムシみたいな奴が血液のある動物なら何でもブスブスさしてこの寄生虫を運びます。
今回の報道でサシガメは国内にいないという記事がありましたが、サシガメは日本にもいます。どうも沖縄の方にいて絶滅寸前といううわさを聞きました。(本当かちょっと不明です。教えて詳しい人…。)サシガメにはとてもカラフルな種類がいて愛好家の方々もいます。国内のサシガメにはトリパノソーマは寄生していないので刺されても大丈夫なはずです。
一方中南米のサシガメの体内にはトリパノソーマが寄生しています。(すみません、どれくらいの割合で寄生しているかは知りません。)このサシガメは昼間は中南米の土で作った民家の壁にある隙間に潜んでおり、夜になると寝ている人を刺して吸血します。しかし吸血されただけではトリパノソーマには感染しません。

サシガメはお腹がパンパンになるまで吸血をすると(どうも20分ほど連続で吸えるようです)その場で糞をします。この糞にトリパノソーマが含まれています。サシガメに吸血された部分は痒くなるので刺されたひとは無意識にそこを掻きます。あるいはサシガメの糞が付いた手で眠い目をこすります。そうするとトリパノソーマが傷口や粘膜から血中に入り込んで感染するのです。
この感染方法は別の恐ろしい感染経路を生みます。サシガメに刺されなくても、トリパノソーマ入りのサシガメの糞に汚染された飲み物を飲むと感染してしまうのです。現地ではサトウキビやアサイーのフレッシュジュース(殺菌処理されていないジュース)からの感染が報告されています。また、一見清潔に見えるココナッツも、ココナッツの実の外側がサシガメの糞で汚染されており、それを持つ事によって手が汚染され、結果的にトリパノソーマが目や口に入ってしまう事があるそうです。

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こうしてトリパノソーマに感染してもほとんどの人はすぐに症状が出る事はありません。ごく一部の人にロマーナ・サインと呼ばれる目の周りの腫れが起こり、まれに心筋炎や髄膜脳炎を併発しますが、ほとんどの感染者は無症状で感染にすら気付きません。しかし血中に侵入したトリパノソーマは筋組織などに侵入し増殖するのです。彼らは好んで心筋細胞や腸菅平滑筋細胞に寄生します。そして10年に及ぶ無症状期間をおいて拡張型心筋症[追記3]、巨大食道、巨大結腸といった症状があらわれます。有症化するのは3〜4割程度、その中の1割がこれらの重篤な慢性末期症状になるようです。
現在感染者は中南米を中心に800万人、毎年1万2000人が命を落としていると言われています。

このように感染しても気付かず、じわじわ寄生されてうっかりすると死んでしまう恐ろしい病気であるシャーガス病ですが、日本においてはまったく知名度がありません。シャーガス病は「顧みられない病気:Neglected Disease」と呼ばれている病気の一つです。
「顧みられない病気」とは先進国ではまったく流行らず、感染地域がもっぱら貧困や内戦に見舞われている地域のため、製薬会社や先進国の研究機関が積極的に治療法を開発しない疾病の事を言います。シャーガス病は基本的に土壁の家に住むような中南米の貧困層しか感染しない病気なので、現地に旅行や仕事で赴任する人間はかかりにくいため知名度も低く、対策もあまり進んでいません。
治療法もあまりありません。急性期に感染に気付いた場合はベンズニダゾールかニフルチモックスを投薬することで寄生虫を殺す事ができます。この二つの薬は40年ほど前に作られた薬で、それ以降シャーガス病に効く新薬は発売されていません[追記8]。ベンズニダゾールの方がやや副作用が軽いようです。ベンズニダゾールは一時期生産停止の危機が報じられていましたが、現在はブラジルで生産されているようです。
急性期にトリパノソーマを殺せない場合、基本的に治療法はないとされています。拡張型心筋症[追記3]、巨大食道、巨大結腸になってしまった場合は外科的手術をするしかありません。ブラジルではこのため、拡張型心筋症[追記3]の治療法、バチスタ手術の研究が進みました。
(急性期のみにしか効かないとされているベンズニダゾールを慢性期にも投薬し効果があるという報告もあります。)

このように、中南米の地方の病気と考えられ長年放置されてきたシャーガス病ですが、衛生状態の改善や周知活動、サシガメの駆除活動等が行われた結果、サシガメからの感染がほぼなくなった地域も出てきました。一方でシャーガス病の都市化が問題になっています。リゾート地でのフレッシュジュースからの感染、母子感染、そして今回日本で問題になっている輸血からの感染です。

今回、輸血検査でシャーガス病の抗体陽性の方が出たという事ですが[追記4][追記5]、これはとてもデリケートな問題をはらんでいます。日本には南米へ移民を送り出してきたという長い歴史があるからです。

南米へ移民をし、帰国した日本人の日系一世、二世、三世の方からの輸血によるシャーガス病の二次感染の危険性は以前から指摘されていました[追記6]。ヨーロッパではすでにスクリーニングが行われており、日本も去年の10月から献血時の問診で中南米諸国出身か、四週間以上の滞在歴があるかを尋ねています。
今回感染が確認されたのはこの措置の結果抗体検査をした2255人の中の1人との事ですが、この方の以前行われたの献血、9回分すべての抗体検査が出来ている事(つまりサンプルがすべて保存されている)、どのように使用されたかのトレーサビリティーが出来ている(という風に読めます)などの報道を読む限り、出遅れ感はあるものの献血のシステムはきちんと回っているように思えます。

今回の感染者の方の国籍は明らかにされていません。しかしながら、日本でシャーガス病にかかる機会はほとんどない現状では、中南米に旅行したか、出身者であるという事は間違いないと思われます。
現在の献血時の問診で中南米諸国出身か、四週間以上の滞在歴があるかを尋ねる方式で本当に良いのかは難しい問題だと朱戸は思っています。
アメリカではシャーガス病が南部に侵入しているとの報道がなされたとき、「シャーガス病は新しいエイズ」というセンセーショナルな紹介がなされました。これがヒスパニック住民への差別につながるのではないかとの批判が起きたようです。
献血は善意で支えられているシステムです。売血には問題があり、人工血液実用化にまだまだ時間がかかり血液は足りていません。本来は善意で献血にきてくださった方を国籍や出身地で追い返すべきではないでしょう[追記7]。アメリカのように差別の問題が起こるかもしれません。しかし献血された血液すべてにスクリーニングをかけるコストはそれなりにかかるのではないでしょうか。問診の回答の正確性とスクリーニングのコストを天秤にかけつつ、グローバル化している時代にどうやって献血のシステムを維持するか、いままで日本に侵入してこなかった感染症とどう向き合うか、これを機に議論が深まればいいなと思っています。




誤字、脱字、間違えへのつっこみありましたら、コメント欄かメールよりご一報ください。
随時更新して行きたいと思います。

追記1:シャーガス病という名前はトリパノソーマ原虫を見つけたカルロス・シャーガス医師にちなんでつけられました。
追記2:トリパノソーマにはいくつか種類があり、有名なものではツェツェバエによって媒介され、アフリカ睡眠病を起こすガンビアトリパノソーマ (T. b. gambiense)やローデシアトリパノソーマ (T. b. rhodesiense)などがあります。シャーガス病を引き起こすのはクルーズトリパノソーマ(Trypanosoma cruzi)です。
追記3:拡張型心筋炎を拡張型心筋症に修正しました。
追記4:一部報道で「シャーガス病の抗体陽性が国内で初めて確認」というような表現が見受けられましたが、シャーガス病の患者自体は国内で何例も見つかっています。しかし専門家が少ないため、シャーガス病であるにもかかわらずそれに気付いていない患者が相当数いると思われます。
追記5:トリパノソーマは感染者の血液中に常にいるわけではなく、虫血症と呼ばれる状況の時にしか血液中に出てきません。虫血症の時期以外では顕微鏡で血中のトリパノソーマを見つける事ができないので抗体検査でシャーガス病かどうか判定する事になります。今回の報道ではこの男性は抗体と遺伝子どちらも陽性だったとのことですが、遺伝子的に陽性ということは血中にトリパノソーマがいたという可能性があります。
追記6:中南米各国からデカセギに来ている人は四十万人。そのうちこの人たちの母国での生活環境を考慮に入れると、このうちの一〇%、約四万人が保虫者と考えられるという報告もあります。
日本にシャーガス病が発生 出稼ぎ者が持ち込む サンパウロ新聞WEB版
追記7:以下(1)~(3)の質問に該当した人の献血血液は、血漿分画製剤の原料血漿のみというシステムになっているようで、完全に門前払いというわけではないようです。
(1)中南米諸国で生まれた、又は育った。
(2)母親が、中南米諸国で生まれた、又は育った。
(3)上記(1)に該当しない人で、中南米諸国に通算4週間以上滞在した。
追記8:エーザイ株式会社はシャーガス病の新薬の開発をしています。
新薬によるシャーガス病治療に向けての協力 エーザイ株式会社
またつい最近、群馬大学がシャーガス病の治療に有効な物質を発見しています。
南米シャーガス病の治療薬候補物質を発見 群馬大学
このような動きがよい新薬の発売に結びつくことを願っています。



こちらから「ネメシスの杖」第1話が読めます。シャーガスの説明は2話以降の方が多いかもしれません…。ロマーナ・サインは子どもにしか現れないという話もありますが、まあマンガなので許して下さい…。単行本は9月末発売予定です。


シャーガス病参考文献ご紹介



しのびよるシャーガス病―中南米の知られざる感染症
(慶應義塾大学東アジア研究所)

執筆者の一人、慶應義塾大学の三浦左千夫先生はおそらく現在日本で最もシャーガス病に詳しい先生です。前半部分は写真も多く一般の方にも分かりやすい内容ですが、後半には論文が載っていたりシャーガス病にかかわるであろう在日のラテンアメリカ医師にも分かりやすいようスペイン語で書かれている部分があったりと、少し取っ付きにくいかもしれません。本書内では輸血による二次感染の危険性についても指摘されています。シャーガス病について正確に知りたい方におすすめの本です。

この記事を書いたら光栄な事に三浦左千夫先生にご連絡をいただきました。お話をうかがってきたのでその内容をまとめました。
シャーガス病について その2


中米の知られざる風土病「シャーガス病」克服への道 (地球選書)
JICAによる地道なシャーガス病への対策を追った一冊。グアテマラ、ホンジェラスを中心にサシガメの調査から駆除、地元住民への周知まで、日本から中南米に渡った青年海外協力隊の若者が活躍します。シャーガス病についてもきっちりまとめてあり、現地の雰囲気も分かる本です。



テーマ:漫画 - ジャンル:アニメ・コミック

  1. 2013/08/16(金) 12:09:54|
  2. シャーガス病について
  3. | コメント:2
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コメント

はじめまして。「ネメシスの杖」最高でした。是非また違う内容の作品を読みたいと思いました。
でも最近シャーガス病の記事が出始めて怖いです。
朱戸さんのせいです。どうしよう
  1. 2013/08/18(日) 01:54:06 |
  2. URL |
  3. joe #FEpIXMo6
  4. [ 編集 ]

Re: タイトルなし

> はじめまして。「ネメシスの杖」最高でした。是非また違う内容の作品を読みたいと思いました。
> でも最近シャーガス病の記事が出始めて怖いです。
> 朱戸さんのせいです。どうしよう
怖がらせてしまってすみません…。
現在次回作に向けて準備中です。
これからも朱戸アオをよろしくお願いいたします。
  1. 2013/12/30(月) 16:04:58 |
  2. URL |
  3. acatoao #-
  4. [ 編集 ]

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